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過去問解説(年度別)

過去問解説(科目別)

科目別要点まとめ

1.公害総論

2.大気概論

3.大気特論

4.ばいじん・粉じん特論

5.大気有害物質特論

6.大規模大気特論

水素

水素はCO2を排出しない燃料として注目されているが、日本ではどういう絵姿になるのか、考えてみる。

一般論

製造方法

まず、水素の製造方法は主に、①改質法(化石燃料から水素を生成)、②電解法(水の電気分解)である。 ①でCO2を回収しない場合はCO2が発生するのでグレー水素と呼ばれ、CO2を回収する場合はブルー水素と呼ばれる。 ②でCO2を排出しない再エネを使って水素を製造した場合、グリーン水素と呼ばれる。

次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

豪州で水素を製造する場合の価格は電中研が以下の通り試算しており、ブルー水素のほうが安い傾向である。

https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDownload?reportNoUkCode=EX21012&tenpuTypeCode=30&seqNo=1&reportId=9840

利用方法

水素の利用方法は①水素バーナーや燃料電池により発電、②製鐵業界における還元剤などが想定されているが、 多くの人が期待しているのはエネルギーの貯蔵という側面ではないだろうか? 電気は貯蔵が難しく、余った電気を一時的に水素に変換しておき、不足したときに発電するというものである。

理屈はそうなのだが、①電気→水素、②水素→電気のいずれの過程おいても変換ロスが発生し、 東京都によると、①②の過程をとると最初の37~39%しか電気は残らない(もちろん、今後の技術革新により、 効率は向上する可能性は十分にある)

水素蓄電の意義 | 東京都環境科学研究所

製造場所

水素の製造は国内・海外どちらで実施するのがよいのか、電中研が以下の通り、コスト比較をしている。 再エネ・水電解の設備費・運転維持費は海外が安いが、液化・輸送にかかるコストがプラスされていて、トントンくらいということ。 (再エネ・水電解の設備費・維持管理費が海外が安い理由は、参照している文献の違いということまでしか読み取れなかったが、  海外ではスケールメリットが期待できること、設備利用率が高いことなどが理由であると思われる)

https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDownload?reportNoUkCode=M19003&tenpuTypeCode=30&seqNo=1&reportId=8945

水素キャリア

「液化」というキーワードが出てきたので解説する。水素は通常は気体であるが、気体のまま運搬すると、一度に運搬できる量が少なすぎるため、 大量に運べる形態に変換する必要がある。水素を変換した形態を水素キャリアと呼び、①液化水素、②MCH、③アンモニア、④メタンなどが検討されている。

水素キャリア 特徴 課題
液化水素 水素を-253℃まで温度を下げてると水素は液化し、大量輸送可能 -253℃まで下げる電力代が過大でコストアップ
MCH 水素を薬剤に溶かし、大量輸送可能 荷揚げ後の反応にエネルギー投入が必要
アンモニア 水素を窒素と反応させアンモニア生成。アンモニアは-34℃で液化し、大量輸送可能 毒性あり、NOx発生
メタン 水素とCO2を反応させ、メタン生成。その後は既存のLNGバリューチェーンがそのまま使用可能 カーボンニュートラルではない

https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDownload?reportNoUkCode=Q18005&tenpuTypeCode=30&seqNo=1&reportId=8886

考察

水素は海外で製造して、水素キャリアのいずれかに変換して、船で輸送し、国内に供給するという水素バリューチェーンの構想がある。 ただ、

  • 電気→水素→電気としたときの変換後に残る電気は最初の4割弱と極めて低いこと(水素キャリアへの変換効率も加味するとさらに悪化)
  • 輸送コストが大幅にかかること

を考慮すると、コスト的にペイしない可能性が高いと考える。やはり電気は電気のまま使うのが最も効率的であり、 可能な限り電化を推進していくべきである。水素は電化がどうしてもできない範囲に絞っていくことが重要だ。

また、需要と供給のバランスを調整するためには、蓄電池が有効である。 今後、コスト競争力のある蓄電池の普及が望まれる。

電化が難しい業種①:鉄鋼業

電化が難しい業種として鉄鋼業がある。鉄鋼業では酸化鉄を還元するために現状コークス(炭素)を使用しているが、 これを水素に置き換えることで、脱炭素を実現しようとしている。 鉄鋼業に供給する水素は、CO2フリーの水素を使用していくことが重要であるが、 以下の方法が考えられる。

  • 系統電源から供給されたCO2フリーの電気を使用して、鉄鋼業のオンサイトで水電解
  • 再エネ発電所にて水電解して製造された水素をローリーorパイプラインで供給

ローリーは輸送量に制約がかかり、パイプラインは敷設に大きなコストがかかることを考えると、 オンサイト水電解が最終的な合理的な解ではないだろうか?

電化が難しい業種 ②:船舶

船舶ではバッテリー船も検討されているが、バッテリー(蓄電池)は重量が重いという課題があり、 アンモニアが有力視されている。 アンモニアは水素を取り出さずそのまま直接燃焼させることも可能であり、水素キャリアの中では効率・コスト的にも有利だ。

アンモニアは船舶燃料としては有望であるが、それだけではスケールアップが難しいので、国内の発電所にもアンモニアを供給することも検討されている。 需要に応じて出力を変動できる電源とすることができれば、CO2フリーの電源として価値はある。

船舶燃料・発電所電源をメインのバリューチェーンとして、その他の必要な個所にローリーで供給するということも考えられる。